アナ・ハルプリン(Anna Halprin 1920~)はポストモダンダンスの母胎となったサンフランシスコ・ダンサーズ・ワークショップ(San Francisco Dancer’s Workshop/1955 創設)によって分野を越えた内外の才能に影響を与えてきた伝説的な存在であり、90歳を過ぎた現在もケントフィールドのタマルパ研究所(Tamalpa Institute/1978 創設)を中心に活動を続けている。ステージ用のいわゆる芸術舞踊の枠を越えて、「現実の問題」と取り組むムーヴメント・リチュアル、他分野の表現媒体を駆使するアーツ・セラピー、さらに近年のコミュニティ・アートの先駆けとしても重要な役割を果たしてきた。
第1日目は、ハルプリンの活動について、木村覚氏、昆野まり子氏により専門の研究者としての立場から映像資料を交えて講演していただき、その後タマルパ研究所の講師陣のひとり、ジェイミー・マヒュー氏(Jamie McHugh)による講演とワークショップを実施する。マヒュー氏はハルプリンに啓発されつつ「身体の知」を目覚めさせるための種々の関連する身体技法を取り込んで独自のメソッド《Somatic Expression》を開発している。
そして、2 日目のシンポジウムでは、日本人のアヴァンギャルド舞踊家として国際的な評価を得ているケイ・タケイ氏および若松美黄氏をパネラーとして迎えて、それぞれのハルプリン体験とその後の展開について語っていただく。とともに樋口聡氏(広島大学)が、リチャード・シュスターマン(Richard Shusterman)の提唱する「身体感性論」(somaesthetics)の視点からパネルに加わり、ハルプリンが示唆したダンスの射程や問題点をめぐって三氏で討議していただく。
以上のプログラムにより、身体感覚(身体という自然環境)の劣化・麻痺・非感性化の状況が進むなかで、ハルプリンの系譜に連なる拡張された舞踊が、「良く生きる/生き切るための技術(arts of living)」としてどのような可能性を有するのかを考えていきたい。 |